Foto Anthem

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小津作品は「お早よう」が最高と感じた件

年末に小津作品を録り溜めていたものを随分と観た。

比較的似た小津ワールドで描かれた作品が多かった中、1959年の「お早よう」は子供たちの視点に焦点を置いた、小津作品としては一風変わった映画だ。

数ある小津作品の中で、自分はこの作品が最高傑作ではないかと感じた。

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昭和生まれ、あるいは昭和の生活に興味を持つ人は「男はつらいよ」初期シリーズを観るのも良いんだけど、「男はつらいよ」は基本的に葛飾柴又の団子屋「とらや」と「諏訪家」、地方の観光地が舞台という限られたカットでテキ屋の寅さんと極身近な人々のドタバタ喜劇が描かれてる。

一方、小津作品は当時の一般的な中流家庭の、どこの家庭にもある話題をテーマに家族群像を描いており、また小道具や衣装、色使い、一つ一つに小津監督の繊細な配慮が感じられ、映画が撮影された時代の空気を描ききっている。寅さんも好きだけど、小津作品には敵わないのだ。

 

「お早よう」が最高傑作と感じる理由①

なんと言ってもカラー作品を撮るにあたり、小津監督の好きな赤色の再現にこだわったドイツ製のAGFAフィルムを採用している事。カラー一作目の「彼岸花」は特に美しかったが、カラー二作目の本作も負けてはいない。ほんとうに美しく撮られている。それだけの理由で繰り返し観るに値する。

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「お早よう」が最高傑作と感じる理由②

本作の舞台は川崎近辺の多摩川べりの新興住宅、というか、「文化住宅」と「団地」だ。

この「文化住宅」はもう失われた言葉だが、幼少期には沢山見かけた記憶がある。今でも名残は若干見かけるが、ほぼ朽ちかけた住戸ばかりだ。それが本作では建てたての、ピカピカの新興住宅地として描かれている。英語教師の佐田啓示はちょっと「モダン」な「団地」に住んでいる。「文化住宅」と「団地」の細やかな描き分けがにくい。いずれも他の小津作品に現れる、昔ながらの戸建て住宅や安アパートとは違う「新興住宅」だ。

 

「お早よう」が最高傑作と感じる理由③

時代背景は朝鮮戦争特需によって経済が息を吹き返し、日本高度成長期に突入する前夜だ。本作は「テレビが欲しくてたまらない世代」と「戦後の新しいご近所つきあい」が引き起こす騒動をシニカルに描いている。輝く未来が立ち上がった日本を手招きしている時代だ。自分も幼少期は確かにそんな息吹の名残を感じていた。最後、ナショナルの14型テレビ(むろん白黒テレビ)が誇らしげに文化住宅に運び込まれるショットが時代の息吹を写し撮っている。感動的だ。

 

「お早よう」が最高傑作と感じる理由④

本作では子役達が主役だ。そして演技が上手い。小津監督が演技指導したと思われるが、とても良い。そして子供達が好きな「おなら」が本作を貫く副主題にもなっている。「テレビ時代の到来」「子供の大好きなおなら」「主婦達のご近所つきあいの難しさ」、そして「サラリーマン時代の定年制度」。まるで幕の内弁当のように、これらのテーマが渾然一体となって、時代の空気が見事に真空パックされている。

 

東京物語」などの白黒作品達ももちろん、流石の小津作品なんだけれど、自分はAGFAカラーの小津作品が好きだし、特にこの「お早よう」は小津監督の最高傑作だと思う。